[レポート] ウルシステムズ株式会社 代表取締役会長 漆原 茂が語る『白熱討論:エンジニア組織を経営する!』 #devio2024 #cm_odyssey
コーヒーが好きな emi です。
クラスメソッド設立20周年を記念し、オフラインイベント、オンラインイベントを複数日にわたって展開するイベント「Classmethod Odyssey」を 2024 年 7 月現在、絶賛開催中です。
当エントリでは、2024/7/12 (金) に開催されたオフラインイベント「DevelopersIO 2024 TOKYO」におけるセッション「白熱討論:エンジニア組織を経営する!」の内容についてレポートします。
セッション概要
イベント公式サイトに記載のセッション概要情報は以下の通りです。
- セッションタイトル
- 白熱討論:エンジニア組織を経営する!
- 登壇者
- 漆原 茂(ウルシステムズ株式会社 代表取締役会長)
- セッション概要
- どうやったらエモいエンジニアチームが経営できるのか?売上や数字を使わないマネジメントは果たして成立するのか?エンジニア経営者たちの白熱した議論をご覧ください!
セッションレポート
■ 漆原 茂さんの自己紹介
漆原さんはウルシステムズ株式会社代表取締役会長ですが、その他複数の会社の代表をされているそうです。
- IPA 未踏プロジェクト プロジェクトマネージャー
- Generative AI Japan 設立発起理事
Generative AI Japan は略して GenAI (ジェナイ) というそうです。
映画スターウォーズをご覧の方はご存じと思いますが、スターウォーズには「ジェダイの騎士」という組織が登場し「フォースと共にあらんことを (MAY THE FORCE BE WITH YOU.)」という合言葉があります。
GenAI にはそれをもじって「生成 AI と共にあらんことを」という合言葉があったり、なかったり…
ここまでの軽快な自己紹介で会場に笑いも起こり、和やかな空気になりました。
「今日は赤裸々に語っていきましょう!」
■ エンジニア組織を「経営」する!
- 会社の代表だが漆原さんはエンジニアであり、「経営とかよく分からんし苦手」と思って生きてきた
- 参加している皆さんもいずれどこかで経営にかかわるときがくる
■ 現場リーダーのジレンマ
- 究極どっちが大事?
- 顧客の満足 vs やりたい仕事
- 顧客の満足 vs 自社の売上
- 自社の売上 vs 面白い企画
- 自社の利益 vs 自分の給料
- お金や資本 vs ヒトやチーム
■ 「超一流」の研究
- 「超一流」に共通していること
- 10,000 時間(=10年)以上、夢中で没頭
- 限界的練習を続けている
- 「ちょっと上」の練習を継続
- 新しい方式を学び続けフィードバックを受けている
- アウトプットして謙虚に自己評価している
- キーワードは 「夢中」と「成長」
- 一流エンジニア組織に必要な環境をそろえることが経営!
■ 「夢中(エモさ)」の研究
- 長期にわたって活躍できる人材⇒ 内発的動機が強くシンプルな人
- ○内発的動機
- 「 好き!」「エモい!」
- ×外発的動機
- 「地位」「名誉」「お金」「評価」
- ○内発的動機
「化学の研究をしている教授が 10 年以上タンパク質をまぜこぜして研究できるのは夢中で大好きだからですよね、そりゃ敵わんとなるわけです」
- 夢中でエモい奴の特徴
- 中長期的に外発的要因を達成していく
- 最初スキルが低そうに見えてもずーっと夢中で頑張るので、うさぎとかめのように最終的にぐんぐんのびていく
- 圧倒的に没頭して熟達する
- 話しかけても気が付かない、など
- 心が健康で幸せ
- 似た者同士でつながっている
- 内発的動機が強い人同士は感情を分かち合う
- 中長期的に外発的要因を達成していく
報酬の研究
- 報酬とモチベーションの研究
- アンダーマイニング効果
- 自発的に行っていた行為に報酬を与えた結果、目的が「やりがい」から「報酬」に変わってしまう
- 数チームに分かれて絵を描いてもらう
- 1 つのチームだけ「うまく描けたらご褒美をあげる」ということにした
- 報酬制度をやめた途端、そのチームは絵を描かなくなってしまった
- 「エモさ」が壊れる
- 自発的に行っていた行為に報酬を与えた結果、目的が「やりがい」から「報酬」に変わってしまう
- エンハンシング効果
- 報酬制度にはメリットもある
- 機械的なルーチン作業に極めて有効
- 一回目の報酬は有効
- 報酬制度にはメリットもある
- アンダーマイニング効果
- 報酬制度は劇薬、極めて慎重に設計する必要がある
- 「会社は伸びるが現場は不幸」が発生する
- 資本市場的経営のリスク
- 個人の「幸せ」が崩れると経済が伸びても現場は揉める
- イギリスにおける Well-being の推移
- 客観的 Well-being (一人当たりの GDP) は上昇
- 主観的 Well-being (現在~ 5 年後の生活に対する自己評価が高い人の割合) は下降
- イギリスにおける Well-being の推移
- エンジニアにとって主観的 Well-being が高いとは?
- 評価 (やりがい) + 体験 (楽しい)
■ 「成長」の研究
- 年齢と知能「若いころはできたけど、年とったらできなくなるんじゃないか?」
- 流動性知能
- 数学の計算、直観力、図形処理、作業の処理スピード
- 20 才くらいが最高潮で以降は衰えていく
- 結晶性知能
- 年齢を重ねるほど蓄積される能力
- 言語化、理解力、洞察力、創造力、自制・内省力、適応力、コミュニケーション力…
- 「新しい技術はまだ分からないけど、EC システムの基礎なら知ってるぞ!」
- 流動性知能
- 記憶力はほぼ年齢によらない。なぜ記憶力が弱まっていくように感じられるのか?
- 記憶力低下は「意欲低下・復習不足」が原因
- 前頭葉の衰えが影響
- 前頭葉を劣化させる環境
- マイナスオーラを浴びる・浴びせる
- 指示された単純作業を考えずに繰り返す
- ごまかす、妥協する、諦める
「愚痴を言うなというわけではないです。ストレスを溜めるのは別の悪影響がありますからね」
- 前頭葉が衰えないような環境
- 毎日プラスのサプライズがある
- 良い仲間とつながっている★重要
- 未来を楽しみにしている
- 幸せオーラに溢れている
- 夢中を維持すれば何歳でも成長できることが研究で証明されている
「良い仲間がいるのは重要です、ゴミ捨てだって良い仲間とやると楽しいじゃないですか!」
マインドセットで行動は全く変わる
- ○ Growth Mindset
- 何でも学べばできる
- できる人を尊敬する
- 挑戦し失敗から学ぶ
- × Fixed Mindset
- 自分の資質がすべて
- できなきゃ才能無い
- 賢いと言われたい
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■ お金や資本 vs ヒトやチーム
- 企業の付加価値の配分を決めるのが経営
- 自社の利益
- 給与・賞与
- 株主価値
- 投資
- 経費、販売管理費
「僕、人件費って言葉嫌いなんですけどね」
- 「適正に配分する」のは難しい。誰にとって適正かが違うから
- 給与は 90 年以降「実質横ばい」
- 失われた 30 年
- 成熟市場なので 1990 年から横ばい
- 一方、企業の株主還元量は着実に増加
- 給与を一定で保ったまま、株主に還元する金額がどんどん増えて 100 倍以上になった
- 成熟市場では当然、企業の資本は投資家に回収される
- 給与は 90 年以降「実質横ばい」
「市場が成熟していって何もしないとこうなってしまうんです、ダサくないですか!?」
ウルシステムズがやってきたこと
- 「資本市場を意識し過ぎず、内発的動機を邪魔しない環境を徹底!」
- 売上目標撤廃
- エモい仕事にみ受注
- 営業組織廃止
- 最高の技術と品質
- 顧客満足絶対
- ヒトも売上/利益も着実に成長する!
- 社員エンゲージメントスコアが高い!
- 社員の士気が高い企業ランキング 2 位:ウルシステムズ
- 正解は無いが、結果的に「ヒトやチーム」が強くなってきている
- 「人的資本」という言葉も流行ってきている
- 人的資本はそのうち金じゃ買えなくなる、チームの方がよっぽど重要になってきている
- エンジニアこそが主役で、どれだけワクワクして、顧客満足につながって、自分たちが誇りを持って作っているサービスにフルコミットできているか
■ これからの「エンジニア組織の経営」とは…
- 「夢中」と「成長」
- 資本市場の構造的プレッシャーに負けない!
- エンジニア組織を経営する人は矢面に立たなければならないタイミングがある
- 利益出さないと続けられない、売上をあげないとといけない
- 「でも、それに隷属する必要はない」という強い気持ち
- エンジニア組織を経営する人は矢面に立たなければならないタイミングがある
- 産んだ付加価値を上手に分配する!
- 単純に株主に配分するだけではなく、社員の Well-being や社会的貢献も加味
「私は経営しながらエモくコード書きます!!皆さんはどうしますか?」
感想
愉快で楽しい、活力を感じるセッションでした。漆原さんは「この人と一緒にいたらきっと楽しく前向きにエモい仕事ができるだろうな」と思わせるエネルギーに満ちていて、聞きながらとてもワクワクしました。
視聴された方の中には「そうなんだよな~~~!それなんだよな~~~!」と首がもげるほど共感した方もいらっしゃるのではないでしょうか。私もです。
実はこの日港区で緊急速報メールが誤送信されちょうど漆原さんの登壇中に二度ほど聴講者の携帯電話が鳴り響いたのですが、緊急性が低いことを確認しつつ聴衆を話に引き戻す話術もすごいなと思いながら聞いていました。
現場エンジニアにとっても、経営者にとっても、幸せにエモく働き続けるためのヒントが得られるような内容だったと思います。どうもありがとうございました。